ワカバノキモチ 朝暮日記 asakure.exblog.jp

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【捕まえたい背中】(加筆済み) <pixivのページにジャンプします>


pixivにアカウントを作っちゃいました(笑)。
pixivは、小説投稿用にちゃんとページが作られているし、一度にアップできる文字数もこのブログの3倍あるので便利です。
自作小説みたいなものは、今後そちらにアップして、ここでお知らせします。
お目汚しですが、よかったら覗いてみてください。(。-人-。)

ひとつ書き上げたことで調子に乗ってしまいまして、今、書くのがめちゃめちゃ楽しいです。
たぶん、書くことでしか書くスキルはアップしないし、友達も、クオリティなんかきにせずとにかく書け、と励ましてくれるので、楽しいと思えている今のうちにたくさん書こうと思います。もしよかったら、暇つぶしにでも読んでみてください。
書く励みになりますので。(〃▽〃)

先日、ここで発表した作品を少し加筆して、もう少し描写を具体的にしてみました。
これが、今の私の描写力の限界のようです。
もっと上手くなるように頑張ろうと思います。
上のリンクからpixivのページにジャンプします。


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by wakabanokimochi | 2018-06-29 23:52 | 自作小説(みたいなもの) | Trackback | Comments(0)
 武川さんからメールが来たのは、あのホテルの夜の三日後だった。一次面接のお疲れ会をしてやるから、今夜、飯でも行こうという。
 ものすごく会いたい気持ちと、どんな顔をすればいいのかわからないという思いが喧嘩する。今までのように平常心で笑える自信がない。
 スマホを握ったまま、なんと返信しようか考えていると、また武川さんからメールが来た。
『19:00にこの店で』という短い文章に、店の地図が添付されていた。
 この前、武川さんたちを見かけた店だった。俺の胸にもう一つの感情が湧く。……これは嫉妬だ。恋人と行く店に俺と行く。
 武川さんにとって、俺はどんな存在なんだろう。この人は、俺が誘いを断るなんて考えてもいない。呼べば必ず来る後輩。慕ってくれる、ただの後輩。
 恋人の代わり……、なんてことはないか。あの人と俺じゃ比べものにならない。
 武川さんに会える嬉しさよりも、惨めさの方が増した気持ちを抱えて武川さんに返信を打つ。
『ありがとうございます!ごちそうになります!』

      ◆

 約束の時間ちょうどに店に行くと、武川さんはもう来ていた。
「今日はありがとうございます」
「いいから、とりあえず飲め。ビールでいいか?」
「はい」
 運ばれてきたビールで乾杯をする。
 今夜の武川さんはいつもより楽しそうで、前より充実しているように見えた。仕事中に突発的なトラブルがいくつかあったこと、それを、尊敬する上司の指揮でうまく乗り切ったことなどを嬉しそうに話してくれる。
「お前も早くこの会社に来いよ」
 自分たちの仲間に入れと言ってくれているようで、素直に嬉しかった。
「で、うちの営業所に配属になればいいな」
「俺も早く、武川さんと一緒に働きたいです」
「そしたら俺がビシビシ鍛えて、さとりのお前を一人前にしてやるよ」
 武川さんは、ことあるごとに俺を『さとり』といじってくる。今までは俺も笑って受け流して来たけど、今日はその言葉がやけに癇に障る。武川さんと一緒にいたあの人を思い出して、また惨めな気分になって俯いてしまう。
「どうしたんだよ?」
 たぶん俺は、少しふてくされた顔をしていたんだと思う。
「さとり、に傷ついたか?」
 武川さんがまた冗談めかして言う。
 だめだ。今日の俺は顔が引きつって、いつものように笑って受け流すことができない。武川さんはいつもの冗談を言っているだけなのに。
「なんだよ?どうした?」
 武川さんが本気で心配してくる。
「俺……」
 もう、自分を止められない。
「俺、この前、武川さんがホテルに入るのを見ました」
 俺は俯いたまま言葉を続ける。
「えっと、……男の人と」
 上目遣いで武川さんを見ると、眉間にしわを寄せた顔をしていた。でもこれは怒っているんじゃない。
 ……傷ついている?
 俺はまた俯く。
「その、あの人はやっぱり……、武川さんの……」
 それを知っても自分が苦しいだけなのに、つい聞いてしまう。
 長い沈黙。
 もう一度、チラッと武川さんの表情を伺う。俺を見ている武川さんの視線とぶつかった。俺は目を逸らす。
「気持ち悪いだろ?」
 俺はハッとして武川さんを見る。武川さんは自嘲気味に笑っていた。
「男同士なんて気持ち悪いよな」
 武川さんの顔には、諦めの薄い笑顔が張り付いている。
 ああ……。俺はこの顔を知っている。
 本当の俺が友達にバレた時に、俺がいつも作ってきた顔だ。
「……うん、まあ、あれだ。その、黙ってて、すまん……」
 いつも自信たっぷりで、いつも理路整然としていて、言い淀んだことなんかない武川さんが言い淀んでいる。俺なんかに対して言い淀んでいる。
 違う。俺は武川さんにこんな顔をさせたいんじゃない。
「違います!」
 武川さんが困惑の表情になる。
「俺も、……武川さんと同じ側の人間です」
 今度は真っ直ぐに武川さんの顔を見る。
 武川さんの顔に張り付いていた薄い笑顔が溶ける。
「そうか……」
 そして、驚きと安堵の顔になる。
「なんだ……、そうか」
 武川さんは何度も笑顔で頷きながら、握ったままだったビールのグラスに口をつける。
「俺、武川さんが好きです」
 武川さんは目を見開いて、口に含んだビールをゴクリと飲み込んだ。そして、真っ直ぐに武川さんを見る俺の視線から逃げるように、目を伏せた。
 ああ、たぶん、それが答えだ。
「牧、俺は今……」
「あの人は恋人なんですよね?」
 武川さんの言葉に被せるように聞く。武川さんは答えない。俺を傷つけないようにと考えてくれているんだろう。
「すみませんでした!」
 場の雰囲気を変えるように、俺は努めて明るい声で謝った。
「勢いで告っちゃいました。気にしないでください」
「牧……」
「今までどおり、またご飯とか誘ってください。お願いします」
 俺は、顔に貼り付けた薄い笑顔を武川さんに見られないように、深々と頭を下げた。

      ◆

 土曜日の午後。
 自分の部屋でパソコンに向かっていると、ポケットのスマホがメールの着信で細かく震える。俺はすぐに取り出して、誰からか確かめる。
「長谷川か……」
 武川さんじゃなかった。
 武川さんに思わず告白してしまった日から十日。あの日から連絡がない。もうすぐキャンペーンが始まると言っていたから忙しいんだろうけど。
 会いたい……。
 俺の思いを受け止めてもらえなくても、やっぱり会いたい。
 武川さんのことを頭から追い出すために、長谷川からのメールを確認する。
『頼む!一生のお願いだ!今夜の合コンに参加してくれ!』
 人数が揃わずに困っているんだろう。確かに、男の方が少なくて女の子があぶれる合コンなんて、最悪だ。
『今度、飯おごれよ』と返すと、『すまん!サンキュー!』という文章とともに店の地図が送られてきた。

      ◆

 合コンはそれなりに盛り上がっている。
 長谷川と斉藤、それから斉藤の地元の友だちの……、村山っていったっけ。
 女の子たちは全員、近くの女子大の2年生らしい。みんなふわふわした柔らかい色合いの洋服で、喋り方もどこかふわふわしている。普通に幸せに、健やかに育ってきた子たちなんだろう。男たちの、小学生並みのくだらない話にも楽しそうに笑ってくれる。
 俺は、そんな楽しげな空気を壊さないように、誰も不快にさせないように、にこやかにみんなの話を聞いている。
 テーブルを挟んで男女が向かい合っていたのも最初だけで、ある程度場が和んだと判断した幹事・長谷川の掛け声で、男女が交互に座るように席替えをした。
 俺の隣にはおっとりした口調の松岡さんが座った。女の子たちの中で、一番ふわふわして見える子だ。女友達と行った旅行先のスイーツが美味しかったとか、そんなことをひとしきり喋っている。
 俺は、ちゃんと話を聞いていることの証明のために、相づちを打ち、時々質問を挟む。こうやっていれば、女の子たちはいつまでも楽しそうに話を続けてくれる。おかげで俺は、自分のことを話さなくて済む。
 旅行先の、雰囲気のいい旅館のことに話が移ったあたりで、松岡さんが急に喋るのをやめて真顔で俺のことを見つめてきた。
「わたしの話、聞いてます?」
 図星を指されてドキッとしたのを「聞いてるよ?」と笑ってごまかす。
 彼女は悪戯っぽく微笑むと、その口元を俺の耳元に寄せてきた。俺は身構える。
「牧さんって、わたしに興味ないですよね?」
「そんなことないよ」
 動揺が伝わらないことを願って、努めてさりげなく言う。
 気がないように見えたなら、どちらにしても失礼だ。迂闊だった。楽しそうにしているつもりだったんだけど。
 だけど、そんな俺の反省なんか関係なく、彼女は耳元でさらに続ける。
「っていうか、牧さんは、女の子に興味がないですよね?」
 全身の毛穴が一気に開いたようなざわつきが体中を走る。
 松岡さんは俺の耳元から顔を離すと、俺の真正面でニコッと笑う。そして、「そんなに怖い顔、しないでくださいよ」と、全然怖くなさそうに言う。
「わたし、そういうの、いいと思いますよ。恋愛は自由です」
 周りのやつらに聞かれていないか、俺は目だけでみんなを見回す。大丈夫。みんな、自分たちの話に夢中で聞こえていなかったみたいだ。
「ここではその話、しないでもらえるかな」
 俺は平静を装って言う。
「牧さん、全然楽しそうじゃないから。我慢して、辛そうに見えますよ。楽しそうなふりしてるの、見ててわかるから」
 松岡さんはさっきまでの笑顔を引っ込めて、少し怒った顔をした。
 そんな彼女の言葉と態度に、俺の動揺は薄らいで、代わりに無性に腹が立ってきた。
 俺のことなんか何も知らないくせに!
『恋愛は自由だから。男とか女とか関係なく。人の目とか気にせず。自分に素直になって。堂々と生きればいい』
 なんの不自由もなくみんなに愛されて、深く傷ついたこともないこんな子だから、そんな綺麗ごとが言えるんだ。好奇の目、蔑みの目、同情の目。そんな目で見られたことなんかないくせに。その視線がどれだけ痛いか知らないくせに!
 怒りなのか悔しさなのかわからない感情が爆発するのを寸前で抑えて、俺は偽物の笑顔を貼り付ける。
「俺はちゃんと楽しいから」
 まだ何か言いたそうな松岡さんの目を見据えて「この話はもうやめよう」と、俺は逃げるように席を立つ。
 客たちのいるフロアからは死角になって見えない、トイレに続く通路へと足早に向かう。トイレで気持ちを落ち着かせよう。
 通路へと逃げ込んだ俺はぎょっとした。
 男子トイレの前で、男二人がもつれ合うように抱き合って激しいキスをしている。
 彼らを見ないように、俺は咄嗟に回れ右をする。
 人が来た気配に二人は慌てて離れて、何事もなかったように俺の前を通り過ぎてフロアへと歩いていく。その時に、二人の顔がはっきりと見えた。
 俺と同じくらいの若い男と、もう一人は、武川さんといたあの人だった。

      ◆

 天空不動産の最終面接が終わった。
 堂々と受け答えできたし、うまくやれたと思う。
 ちょっとの手応えと、極度の緊張からの疲労を抱えて、俺は天空不動産本社の入ったビルのエントランスを出ようとしていた。その時、後ろから誰かの声が聞こえた。
「ねぇ、君!」
 エントランスに響く大きな声の主が気になって振り向くと、背の高い男が、にこにこと手を振りながら俺の方に駆け寄ってきた。武川さんといた、あの人だった。俺は唖然として立ち尽くす。
「君、うちの面接受けたんだ?」
 驚きすぎて声が出ない。
「君、政宗……、いや、武川さんと一緒にいたよね?」
 え……、なんで……?
「僕、綾野。今から外回りなんだけど、よかったらちょっとだけお茶しない?」
 思考回路が停止したままおそるおそる頷いて、俺は、綾野と名乗るこの人の後ろについて行った。

      ◆

 わけがわからないまま、綾野さんに連れられて近くのカフェに入る。窓際の席につくとウェイトレスが注文を取りに来た。
「僕はアイスコーヒー。君は?」
「俺、あ、僕もアイスコーヒーで」
 かしこまりました、とウェイトレスはカウンターの中に入っていった。
 俺はまだ激しく混乱していた。この人は、天空不動産を「うち」と言った。ということは、武川さんの同僚? 俺が武川さんと一緒にいたことも知っていた。俺が二人を見かけたように、この人もどこかで俺たちを見かけたのか。
 だけど、なんでこの人は俺に声をかけたんだ?
 この人は、ほんのちょっとだけゆっくりしたテンポで話す人だった。
「僕も天空不動産なんだ。武川さんの後輩。僕は、今は本社勤務なんだけどね」
 そのテンポが、優しげな雰囲気と、少しのミステリアスさを醸し出していた。そして、相変わらず色気のある目をしている。不思議な空気をまとった人だ。
 確信する。……この人には、俺は敵わない。
「あの……、牧といいます。えっと……、武川さんの大学の後輩です。OB訪問でお世話になりました」
 最近はあまりおどおどしなくなってきていたのに、この人の前では弱気な自分に戻りそうになる。
 ウェイトレスが、アイスコーヒーを二つ、俺たちの前に置いて立ち去った。綾野さんがそのコーヒーを一口飲む。俺も飲む。
「武川さんのことが好きなの?」
 あまりにも直球すぎる問いかけに、俺は「え?」と固まってしまう。
「武川さんのことが好きだから、うちの会社に入りたいんでしょ?」
 馬鹿にしているような言い方ではない。むしろ優しい声だ。だけど、俺は、いきなり自分の心を見透かされた恥ずかしさで、体がカッと熱くなる。
「不純な動機だな。……でも、嫌いじゃないよ、そういうの」
 そう言いながらふふっと笑って、綾野さんはまた一口コーヒーを飲んだ。
 俺は、勇気を出して聞いてみる。
「あの、綾野さんは、……その、武川さんと、付き合ってるんですか?」
 綾野さんはさっきの微笑みのまま「うーん」と考える顔をした。
「俺、あの、綾野さんが別の男と、……その、キスをしてるの、見ました。なのに……、武川さんとは、ホテルに……」
 綾野さんは相変わらず優しい顔で「ああ」と納得したような声を出した。
「僕は、付き合ってなくてもホテルに行くし、キスもするよ」
 そんなの当たり前じゃないか、という言い方だった。腹が立った。
 その腹立ちが顔に出ていたんだろう。
「牧くんは真面目なんだね」
 やっぱり馬鹿にしているような言い方ではない。
「真面目なのも純情なのも好きだよ。だけど、僕は、真面目じゃないんだ」
 真面目に生きるのはやめたんだ、そう聞こえた。
 この人の目が持つ優しい光は、俺が本心を隠す時に貼り付ける薄い笑顔と同じものなのかもしれない。
 何も答えられないでいる俺に、綾野さんは続けて言う。
「武川さんもね、君と同じ真面目な人だよ」
 綾野さんはまたふふっと笑う。
「君たち、お似合いかもしれないね」
 俺はなんだか無性に悲しくなった。
 武川さんはきっと真面目に綾野さんに向き合っているのに。そして、そんな武川さんの気持ちを綾野さんは知っているのに。
 俺は自分のコーヒーを一気に飲み干す。
 この人はたぶん、いろいろ乗り越えてこの生き方を選んだんだろう。それを悪いとは思わない。
 だけど、この人じゃ、武川さんは幸せになれない。
 さっきの確信は、一度忘れることにする。
「俺、武川さんが好きです」
 俺は深く一礼して席を立つ。
「ありがとうございました。失礼します」
 店を出た俺は、武川さんにメールを送る。
『最終面接、終わりました。話がしたいです。夜7時に海港公園で待ってます』

      ◆

 夜景が綺麗な夜の海港公園には、何組もの恋人たちがデートを楽しんでいる。
 7時ちょうど。武川さんが歩いてくるのが見えた。俺は頭を下げる。
「呼び出したりしてすみません」
「いいよ。で、面接はどうだった?」
「うまくやれたとは思うんですけど、正直、……わからないです」
「……そうか」
 俺は意を決する。
「俺、ちゃんと言います。俺と、付き合ってください」
 俺がこう言うのを武川さんは予想していたんだろう。驚いた顔はしなかった。
「二十近くも歳が違うんだぞ」
 笑いながら武川さんは言う。だけど、俺は笑わない。
「そんなの、関係ないじゃないですか」
 初めて見せる俺の強気な態度に、武川さんが一瞬たじろいだのがわかった。
「俺が武川さんと付き合えないのは歳のせいですか? それとも、……あの人のせいですか?」
 武川さんは俺から目を逸らす。
「あの人じゃ、武川さんは幸せにはなれません」
 武川さんは眉間にしわを寄せて、俺を睨む。
「あの人は、武川さんには似合いません」
「お前が彼の何を知ってる?」
 言い方は静かだけど、怒っている。
「今日、あの人に会いました」
 武川さんの顔に戸惑いの色が浮かぶ。
「面接が終わったあと、あの人、綾野さんから声をかけられたんです。綾野さんは、俺が武川さんと食事に行ってるのを知ってて、それで声をかけてきたみたいです。そのあと、少し話をしました」
 武川さんは何も言わずに聞いている。
「綾野さんはかっこいいです。俺とは比べものにならないくらい、かっこいいです。だけど、俺、だからって、武川さんのこと、諦めたくないです」
 涙が滲んでくる。だけど、泣くのはかっこ悪い。
「俺、武川さんに出会えて救われたんです。武川さんが、いつも俺の背中を押してくれるんです。俺、武川さんじゃなきゃ駄目なんです」
 堪えていたのに、最後は涙声になってしまった。
「牧……」
 俺は、子供がするみたいに、ごしっと腕で涙を拭う。
「返事は今すぐじゃなくていいです。天空不動産から内定をもらえたら、……その時、返事、聞かせてください」
 武川さんに何も言う隙きを与えないよう、俺は一礼してその場を走り去った。

      ◆

 どの会社も、面接を受けてからだいたい一週間前後で、なんらかの通知が届く。
 キャンパスに行くために家の玄関を出た俺は、就活を始めてからの習慣で外の郵便受けを覗く。
 天空不動産から封書が届いていた。その場で急いで封を切る。
 内定通知だった。
「やった……!」
 嬉しかった。
 単に、就職が決まったから、というだけではない。特にやりたいこともなく、自分に何が向いているのかもわからず、自分に自信なんて全然なかった俺が、会社という大きな組織に必要とされているという嬉しさ。
 だけど、武川さんは俺を必要としてくれるだろうか。
 さっきまでの嬉しさが、嘘のように冷めていく。

      ◆

 結局、武川さんに連絡をしないまま内定式を迎えた。武川さんからも連絡はない。それが答えなのか、とも思う。
 内定式のあとの懇親会で、俺はまた綾野さんに声をかけられた。
「うちに決まったんだね。おめでとう」
 綾野さんは、相変わらず優しい目で、妙にセクシーで、そして、なんだか寂しそうだった。
「ありがとうございます」
 平静を装ってみるが、この人の前だと、本心を見透かされそうでどんな顔をしていいのかわからない。
「武川さんに何か言った?」
 この人は、なんでいつも、こんなに直球なんだろう。
「えっと……」
 なんと答えよう。
 綾野さんは、俺の言葉を待たずに言う。
「武川さん、もう、僕とは会わないんだって」
 俺は弾かれたように綾野さんを見る。
「僕、振られたよ」
 綾野さんは、ふふっと優しく笑った。
「あの……。ちょっと失礼します!」
 挨拶もそこそこに俺は会場を飛び出し、武川さんに電話をかける。
 2コール、3コール、4コール目の途中で「もしもし」という武川さんの声が聞こえた。
「急にすみません。俺です。ほんと、急なんですけど、今から会えませんか? っつうか、会ってください! お願いします!」
 息継ぎもせずに一気に言う。
 電話がブツッという音を立てて切れる。
 切られた……? なんで……?
「もう来てるよ」
 スマホを握ったまま呆然としている俺の後ろから、武川さんの声が聞こえる。
 振り向くと、走ってきたのか、髪の毛が少し乱れた武川さんが肩で息をしながら立っていた。
「武川さん……」
 俺に向かって大股で歩いてきた武川さんに、俺は、その勢いのまま、ガシッと抱きしめられる。
 武川さんの体の熱と、心臓の音が伝わってくる。
「俺も、お前に救われた」
 武川さんの声が耳のすぐ近くで聞こえる。
「お前は俺の背中を引っ張ってくれた。お前が、不毛な恋愛から俺を引きずり出してくれたんだ」
 武川さんが、さらに強く俺を抱きしめる。
「俺も、お前じゃなきゃ駄目だ」
「武川さん……」
 俺も、すがりつくように武川さんの体に腕を回した。
 やっとこの背中を捕まえた。
 決して離さないように、捕まえた腕にぎゅっと力を込めた。


<了> 前のページの前編はこちら


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by wakabanokimochi | 2018-06-23 15:59 | 自作小説(みたいなもの) | Trackback | Comments(2)
ドラマ『おっさんずラブ』にハマったという話は何度かここでしましたが、ハマり過ぎて、なんとわたくし、二次創作で小説みたいなものを書いてしまいました。( 艸`*)

昔から文章を書くのは好きで、だから、こんな風にブログを書いたりしてるんですが、過去には小説みたいなものを書きかけたこともあるんです。
だけど、全然書き上がらなくて、「読書も大好きだけど、読むのと書くのは大違いだな」と、物語を書くのは向いてないと思っていました。

だけど、今回、『おっさんずラブ』の物語の素晴らしさに触発されて、私も物語を作りたくなって、ちょっと頑張って書いてみました。
初めてにしてはまあまあの出来だと思うんですが、どうでしょう?
今後の参考にするので、ぜひ、読んでダメ出ししてください。
だけど、ダメ出しの前にちょっとだけ褒めてください(笑)。
ダメ出しだけだと、たぶん、心が折れちゃうんで(笑)。

ドラマ『おっさんずラブ』の前日譚で、ドラマを見てない人でも大丈夫なように書いたつもりです。

では、どうぞ。(〃▽〃)

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

『捕まえたい背中』


「なあ、牧。合コンの人数が足りないんだけど、お前は参加……、しないよな?」
 ゼミの教室で隣に座った長谷川が、それほど期待していないという顔で聞いてくる。
「うん。俺はいいや」
 あまり素っ気なくなりすぎないように注意して断る。
「凌太はイケメンなのに人見知りだよなー。合コンにでも行かねーと、彼女、できねーぞ」
 長谷川の向こうに座った斉藤が、本気で心配そうに言う。
 余計なお世話、という思いが心の中に浮かんだことをほんの少し申し訳なく感じながら、「だね」と、俺は苦笑いをしてみせる。
 高校の時の別れの痛さを引きずったまま大学生になった俺は、もうすぐ4年生になるというのに親友と呼べる友達は作らずに過ごした。
 それなりに仲のいい奴はいる。長谷川や斉藤もそうだ。ゼミで会えばくだらない話で笑い、週末には居酒屋に繰り出したりもする。こいつらから見たら『人見知りで奥手、人畜無害の牧凌太』そう見えているんだろう。だとしたら思惑通りだ。そう見えるように、本当の自分を出さずにいるのだから。
 こいつらのことが嫌いなわけではない。一緒にいて馬鹿騒ぎをするのは楽しいし、むしろ好きだ。だけど、それと、本当の自分をさらけ出す、ということは別だと思っている。
 もし「俺が好きなのは男なんだ」とここで言ったら、こいつらはどんな顔をするだろう。素直にさらけ出したからといって受け入れられるとは限らない。

      ◆

 春休み。周りの奴らが着実に自分のやりたいことを見つけているなか、俺はまだ、やりたいことも、自分が何に向いているのかも見つけられないでいた。どうやって見つければいいのか、その方法さえわからない。就職そのものが俺には向いていないんじゃないかとか、そんな思いさえ湧いてくる。
 みんなに取り残されるという焦りだけが日に日に募っていくなか、俺は、自分の部屋のパソコンで企業情報を漁っていた。
 情報が全然頭に入ってこないまま見ていた、あるページの社員紹介の中に、その言葉はあった。
『自分の好きな仕事をするんじゃない。自分の仕事を好きになるんだ』
 天空不動産の、――武川政宗。
 この、武川さんの言葉が、やりたいことさえ見つけられない不甲斐ない俺を、そんなお前のままでいいんだと励ましてくれているように思えた。
 武川さんは、うちの大学のOBだった。俺はさっそく、OB訪問のアポを取り付けた。
 俺が、自分から積極的に誰かと会おうとするなんて、大学生になって初めてかもしれない。

      ◆

 慣れないスーツに身を包んだ俺は、武川さんが勤務する天空不動産の営業所を訪ねた。
 案内された応接スペースの椅子に座っていると、すぐに、スラッと背の高い武川さんが現れた。俺は慌てて立ち上がる。俺とは違って、スーツがビシッと決まってかっこいい。仕事に妥協を許さない厳しさと神経質さをまといながらも、眼鏡の奥の切れ長の目は後輩の訪問を歓迎してくれているようだった。……途中までは。
 勢いでアポを取ってここまで来たものの、極度に人見知りの俺は、できる男のオーラが眩しい武川さんを前にして頭が真っ白になってしまった。
「えっと……、今日は、あの、わざわざ時間を、えっと、作っていただいて……、ありがとうございます」
 しどろもどろになりながらも、なんとかお礼の言葉は言えた。
「そんなに緊張しないでいいよ。どうぞ、座って」
 ガチガチの俺をほぐそうとしてくれるように、武川さんは優しい声で椅子を勧めてくれる。
「……失礼します」
 ほとんど蚊の鳴くような声で言って座った俺は、もう次の言葉を継げないでいた。
 固まっている俺に武川さんは、
「なんで不動産志望なの?」と聞いてくれる。
「いや、ま……、特に……、その、不動産がいいというわけでは……」
 やりたいことが見つからずに悶々としていていた時に武川さんの言葉に出会ったこと、そして、その言葉がものすごく俺の背中を押してくれたこと、そんなことを伝えようと何度も頭の中でシミュレーションしたはずなのに、喉が詰まったようになって言葉が全然出てこない。
 うまく喋れない俺を見た武川さんは困ったように笑って、迷子の子供に話しかけるような口調になる。
「えーっと、……うちでどんな仕事したい?」
 そんなこと考えてもいなかった。
 俺に何ができる? 何を言えばもっともらしく聞こえる? 考えれば考えるほど何も思いつかない。
 はっきりしない俺に、武川さんが明らかにいらつき始めたのがわかった。優しいOBの仮面がはずれて、眉間にしわの寄った険しい目で俺を見てくる。俺は、ここから逃げ出したい気持ちを必死に抑える。
「あのねぇ。僕は今、貴重な時間を割いて君に会ってあげてるんだよ。失礼だと思わないの?」
「すみません」と言おうと思うのだけど、怒っている武川さんの雰囲気に気圧されてますます声が出ない。
 武川さんみたいな人は、俺みたいな奴が一番嫌いだろうと思う。
 トンっとテーブルを叩いて、武川さんが椅子から立ち上がる。俺の心臓が跳ねる。
「そんなに嫌なら就職なんかやめろ」
 武川さんは真っ直ぐに俺を見て、真っ直ぐに俺に怒っていた。
「帰れ」
 するどい声で一言言うと、武川さんは自分のデスクへ戻ってしまった。
 一人取り残された俺は泣きそうになっていた。恥ずかしさと申し訳なさと不甲斐なさ。そんなさまざまな感情が胸の中をぐちゃぐちゃにしていた。
 それとは別に、真っ直ぐに俺に怒っていた武川さんの目に驚いてもいた。
「……失礼しました」
 きっと誰にも聞こえていない囁き声のような挨拶をして、俺は逃げるようにそこから立ち去った。

      ◆

 夏のうだるような暑さのなか、俺はキャンパスを出て駅へと向かっていた。
 あのOB訪問から数ヶ月が経っているのに、俺はまだ傷ついていた。思っていることをちゃんと言えなかった自分の弱さと、初対面の人を怒らせてしまったということに。あの時のことを思い出すと胸の奥がズンと重くなる。人と関わることは極力避けようと決めていたのに。柄にもないことはするもんじゃない。苦い思い出はとっとと忘れて、封印してしまえばいい。
 しかし、それと同時に、その感情の奥に温かみみたいなものを感じていて戸惑ってもいた。この気持ちはなんだろう?
 そんなことを考えながら歩いていると、道行く人にチラシを配る武川さんの姿が、俺の目に飛び込んできた。分譲マンションの大きな広告を体の前後につけたサンドイッチマンの格好で、額に汗を浮かべてチラシを配っている。
 その姿を見た時、俺の胸の奥の温かいものが、何故だかストンと腑に落ちるのを感じた。
「そうか……」
 俺は嬉しかったんだ。武川さんに怒鳴られたことが。初対面の俺なんかのために本気で向き合おうとしてくれたことが。俺は、誰とも向き合おうとしていないのに。
「あの……」
 俺は思わず武川さんに声をかけた。お客さんに声をかけられたと勘違いしてにこやかに振り向いた武川さんは、相手が俺だとわかると途端に険しい顔になった。
「なんだよ。邪魔だ。あっち行け」
 一瞬、怯みそうになる。だけど、踏ん張る。
「俺にも配らせてください」
 言葉でうまく言えないなら行動で見せるしかない。
「は?」
 武川さんの手からチラシを奪い取る。
「よろしくお願いしまーす」
 俺はぎこちなく声をかけながら道行く人にチラシを差し出す。
 そんな俺のことを、武川さんは戸惑ったような顔で見ていた。

      ◆

 持っていたチラシを配り終わると、武川さんは首筋に流れる汗をハンカチで拭きながら、歩道の脇の花壇の縁に腰掛けた。俺の顔は見てくれない。このまま無視されるのだろうか。それならそれでもいい。
「俺、知らない人にあんなに怒られたの、初めてです」
 武川さんは、ペットボトルの水を一口飲んでからチラッと俺を見る。
「ゆとり世代か?」
 よかった。無視されなかった。
 嬉しくなった俺は「さとり世代です」と食い気味に答えて、武川さんの横に並んで腰を下ろす。
「知らねえよ」と突き放すように言った武川さんは、未開封の水のペットボトルを俺に差し出してくれる。
 俺はそれを受け取る。
 OB訪問の時に言えなかったことを、今、ちゃんと言おう。
「周りがやりたい仕事とか会社をどんどん見つけていくなかで、俺は特にそういうのはなくて……。でも、たまたま、御社の社員紹介ページで武川さんが書いていたことに感銘を受けて……」
「それでOB訪問に来たのか?」
「はい」
「悪いけど、何書いたか覚えてない」
 そんな些細なことでOBを訪ねるなんて迷惑だ、という顔だ。
 確かにそうかもしれない。俺みたいなウジウジした奴に来られても嬉しくもなんともないだろう。だけど、俺には大事な言葉だったんだ。
 俺は、武川さんの顔を真っ直ぐに見ながら言う。
「自分の好きな仕事をするんじゃない。自分の仕事を好きになるんだ」
 俺の背中を押してくれた大事な言葉。
 武川さんは少し照れたようにふっと笑って、そしてもう一度チラッと俺を見た。
「……覚えてないな」
 俺が、武川さんのその言葉を大事にしていることが、ちゃんと武川さんに伝わったのを感じた。
 もう、武川さんの前でも緊張せずに笑うことができる。
「武川さんが覚えていなくても、俺はあの言葉のおかげで一歩踏み出せたんです。武川さんのおかげです」
 武川さんは嬉しそうに微笑んで、俺を真っ直ぐに見ていた。
「俺、武川さんといっしょに働きたいです」
 一番言いたかったことが、ちゃんと言えた。

      ◆

 そのあと、堰が切れたように喋り出した俺を、眉間にしわを寄せた武川さんが遮る。
「悪いが、俺はこれから営業所に戻らなきゃいけないんだ」
「あ、すみません……。俺……」
 武川さんがあまりにも嬉しそうに微笑んでくれたから調子に乗ってしまった。我に返って落ち込む。
 武川さんは、しょうがないなという顔で俺を見る。
「今夜、暇か?」
「はい!暇です!」
「じゃあ、飲みながら話そう。さとりでも、酒、飲めるんだろ?」
 俺たちは連絡先を交換した。
 あとで連絡すると言って、武川さんは営業所のある方へ歩いていった。俺は、その後ろ姿を、見えなくなるまで見送っていた。

      ◆

 チラシ配りの夜に食事連れて行ってもらったのをきっかけに、武川さんはそのあとも頻繁に俺を誘ってくれるようになった。
 武川さんに連れられて行く店はどこもおしゃれだ。敷居の高い高級店という感じではなく、OLが少し贅沢な女子会をするような、ほどよいカジュアルさのある店。俺たち大学生がいつも行くチェーンの居酒屋とは雲泥の差だ。
 こういう食事の時の俺は、たいてい、武川さんの語る仕事論の聞き役だ。大学という生ぬるい中に浸かっている俺には、仕事のことを熱く語る武川さんの姿が眩しい。
 俺の就活の愚痴も聞いてくれるが、そのうち決まってダメ出しが始まる。
「お前の自信のなさは、自分を信じてないからだよ」
 俺が、胸の奥に隠しているかさぶた。武川さんは時々、そのことを知っているんじゃないかと思うようなことを、さらっと言う。かさぶたが少しだけズキンとする。
「お前は、お前が思っているほど駄目な奴じゃないぞ」
 明日は晴れらしいぞ、くらいの、なんでもないような口調で武川さんは言う。
 ああ、この人は。
 いつもこの人は、なんてさらりと俺の背中を押してくれるんだろう。
 変に「だから頑張れ!」なんて熱く励まされていたら、たぶんシラけた気持ちになっていただろう。
 泣きそうになるのを、俺はグッと堪える。
 俺はまだ、自分の何を信じればいいのか全然わからないけど、俺のことを信じてくれるこの人を信じようと思う。
 「ありがとうございます」
 俺は武川さんのようになりたいと、強く思う。

      ◆

 今日は天空不動産の一次面接だった。全然うまくやれなかった。ほかの会社の面接をいくつも受けてきて、だいぶ面接慣れしたと思っていたのに、本命の天空不動産だというプレッシャーで緊張してしまった。どうして俺は、大事な時にいつもこうなんだろう。
 駅に向かって歩いていると、酔っ払った三人連れのサラリーマンの一人に肩をぶつけられる。思わず「すみません」と謝ってしまうが、三人組は気にもとめずに行ってしまった。
 前を見ていなかったのはあっちの方なのに。
 けっこう年配だったから、部長とかクラスの人たちだろう。俺たちが就活で疲れ切っているというのに、いい気なもんだ。
 このまま家に帰っても落ち着かない。俺はスマホを取り出して武川さんの番号を画面に出す。
 俺の方から電話したことなんて今までなかったけど、いきなりかけたら失礼だろうか。まだ夜9時過ぎ。そんなに遅い時間じゃない。もう仕事は終わってるよな。
 番号を見つめたまましばらく考える。
 結局、画面を待ち受けに戻してスマホをポケットにしまう。
 ……武川さんに会いたい。
 あてもなく歩いていると、大通りを挟んだ向こうの通りに、前に武川さんに連れて行ってもらった創作和食の店を見つけた。……一人で入ってみようか。
 逡巡していると、店から人が出てくるのが見えた。
 武川さんだった。あまりの偶然に鼓動が早くなる。
 すると、続いてもう一人、男が出てきた。武川さんよりは少し年下だろう。30代前半。武川さんと同じくらいの背の高さで、ダークな色合いのスーツ姿がかっこいい。緩いパーマの前髪が妙に色気のある切れ長の目にかかって、整えられた顎ひげがさらにセクシーさを醸し出している。
 さっきよりさらに強く、俺の心臓がドクンと鳴った。
 二人は談笑しながら駅とは反対の方向に歩き出す。思わず俺も同じ方向に歩き出す。大通りを挟んでいるから、武川さんに見つかることはないだろう。
 友達や同僚という以上に親密そうに見えるのは気のせいだろうか? なんだかとてもお似合いな二人だ。妙に胸がザワザワする。
 そのまま二人はシティーホテルへと入っていった。怪しく見えない程度のさりげなさでホテルの中を伺うと、武川さんがフロントでルームキーを受け取っているところだった。
 そして、エレベーターの箱の中に二人で消えていった。
 俺は立ち尽くしたまま、今、目の前で起こったことの意味を考える。男と一緒にホテルの部屋へと上がって行った武川さん。答えはひとつしかない。
 武川さんはこちら側の人間だ――。
 胸の中がカッと熱くなる。
 武川さんはこちら側の人間だった!
 喜びに似た感情が胸を満たす。でもそれも一瞬のことで、すぐに暗くて重いものが、喜びを押し潰すように沈んでくる。一緒にいたあの人は、武川さんの恋人? ……だよな。
 すごくかっこいい人だった。色気があって自信満々で。たぶん仕事もできて。きっと俺とは真逆の人だ。
 俺は努めて冷静に現実を見つめることにした。
 俺が入り込める隙間があるなんて、とても思えない。
「……何やってんだ、俺は」


<つづく> 次のページの完結編はこちら

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by wakabanokimochi | 2018-06-23 15:45 | 自作小説(みたいなもの) | Trackback | Comments(0)