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【読書】 琥珀のまたたき / 小川洋子

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★★★<5段階評価>

内容紹介(Amazonより)------------------
魔犬の呪いで妹を失った三きょうだいは、ママと一緒にパパが残してくれた別荘に移り住む。
そこで彼らはオパール、琥珀、瑪瑙という新しい名前を手に入れる。閉ざされた家の中、三人だけで独自に編み出した遊びに興じるなか、琥珀の左目にある異変が生じる。
それはやがて、亡き妹と家族を不思議なかたちで結びつけ始めるのだが……。
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内容紹介を読むとファンタジーかおとぎ話かという印象を受けるだろうが、そうではない。

現実的な言葉で無粋に説明すると、末娘の死で精神を少し病んでしまった母親は、「外には妹を殺した魔犬がうろついているから」と脅してほかの幼い三人の子供たちを別荘の敷地内の閉じ込めて育てる。
外の世界を知らない子供たちは想像と妄想で作り上げた独自の世界観の中で生きることとなる。

小川さんワールド全開。
我が子を、学校はおろか自宅の敷地から一切出さないわけだから立派な児童虐待の話なんだけど、現実感を伴う残虐さみたいなものはなく、長編のおとぎ話か詩を読んでいるような、静かで幻想的な作品。
小川さんの作品には共通することだけど、無駄な音を一切感じなくて、その静寂さにいつも圧倒される。

家に閉じ込められるというもともと異常な状況が、子供たちが成長するにつれて少しずつそのいびつさを増し、不穏な感じを募らせていく。
母親の心の歪み、子供たちの心の歪み、そういったものが、あえて詩的で美しい表現で綴られることによってより狂気的に感じた。

思わず唸ったキレイなフレーズを2つだけ紹介。

自分のいるこの世界は、瞬きによって切り取られた一瞬一瞬の連なりで出来上がっているのだと、彼は気づく。



一年に六日だけ、彼らの暮らしにロバが加わることになった。
(中略)
彼らの頭の中で一年は、(ロバの)ボイラー以前とボイラー以後、二種類の季節に分類された。
その二つをロバの六日間がつないでいた。
言ってみればロバは、リボンの結び目と一緒だった。
特別な形に整えられた結び目があるからこそ、彼らの閉ざされた単調な時間は、ただの一本の紐ではなく、愛らしいリボンになるのだった。




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by wakabanokimochi | 2016-03-03 22:57 | 読書 | Trackback | Comments(0)